2014年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月26日(月)
A会場 10:30-18:00

HTSコイル磁場均一性 1A-a01-06 座長 川越 明史

本セッションでは、6件の報告があった。
1A-01:今市(早大)らは、変動磁場に対するYBCOコイル内部の遮蔽電流の振る舞いや、時間に対する遮蔽電流の減衰のメカニズム
について考察した結果を報告した。
1A-02:許(千葉大)らは、超伝導層を3分割したスクライビングREBCO線材で巻いたダブルパンケーキコイルにおける遮蔽電流磁場が、
分割しない場合に比べて顕著に低減することを、実験と数値解析で明らかにした結果を報告した。
1A-03:松見(早大)らは、非円形スパイラルセクターコイルの試作コイルにおいて、発生磁場分布を測定し、数値計算結果と比較
した結果からほぼ設計通りに巻線できていることを示した。しかしながら、位置に対する磁場変化が急峻な場所では発生磁場の誤差が
大きかったため、今後は誤差要因として電磁力や熱収縮による変形を考慮に入れた解析を行っていくとのことであった。
1A-04:辻(早大)らは、開発中のサイクロトロンの中でも特に応力集中の予想される非円形スパイラルセクターコイルに対し、機械的
にコイルを補強するYOROI構造を適用した場合の効果を数値解析により評価した結果について報告した。補強なしの巻線単体では変位が
大きすぎて原形を保てないが、YOROI構造を採用することにより、コイルに要求される機械強度を満たすことを示した。巻線に加わる
応力の向きまで確認する必要があるという指摘があった。
1A-05:曽我部(京大)らは、薄膜超伝導線材で巻かれた鞍型コイル内の電磁界解析を行うための三次元モデルについて、解析時間の
短縮を目的とした近似解析モデルについて報告した。
1A-06:益田(九大)らは、鞍型ピックアップコイル法を用いてREBCO線材の磁化緩和を測定した結果について報告した。バイアス磁界
が大きくなるほど、温度が高くなるほど緩和率が大きくなるデータが観測されたことから、鞍型ピックアップコイル法による磁化緩和
測定の有効性が示された。


HTS NMR 1A-p01-04 座長 宮崎 寛史

1A-p01 柳澤(理研):LTS/REBCO NMR磁石において、均一磁場を作り出すためのシムコイルなどの磁場補正技術について報告が
あった。最内層にNb3Sn線材で巻いた超電導シム(Z2シム)を配置し、REBCOコイルの遮蔽電流の影響による顕著なZ2成分を補正
した結果が示された。また、コイル巻乱れと遮蔽電流の影響により顕著なラジアル磁場不均一成分も発生するとのことである。
1A-p02 井口(上智大):内層側に配置したZ2シムコイルによる補正の結果および超電導シム、磁性シム、常温シムによりすべての
成分において調整ができた結果を報告した。
1A-p03 朴(千葉大):試験中にチラーが停止してしまい、内層のZ2シムコイルがクエンチした結果を報告した。Z2シムコイルの
クエンチの影響により、大きな不整磁場成分が発生したとのことである。現在、再度シムによる調整中であり、調整完了後、NMR
測定を実施するとのことである。
1A-p04 柁川(九大):異常横磁界効果を利用した遮蔽電流抑制について、500 MHzNMR用のHTSインサートコイルに適用した場合
の設計結果が報告された。銅線で作られた補償コイルをHTSインサートコイルの内外に配置し、横磁界を印加することで遮蔽電流を
抑制するとのことである。


Y系線材(1)/NMR応用 1A-p05-8 座長 山田 穣

京大の土井ら(1A-p05)、電中研の一瀬ら(1A-p06)は、低コスト化を目指した新しい鉄系基板によるYBCO線材の作製を試みている。
従来は高価なハステロイ基板を用いているが、昨今各社から販売され量産化が進んでおり、コスト低減を狙ったものである。
ハステロイに比べ鉄基板は大幅に材料費が下がる。実験では、2軸配向が得られ、まだ高くはないが臨界電流も得られたことが
報告された。一瀬の報告では詳細なTEMによる組織、配向性観察がなされていた。結晶成長の段階で徐々に特定方向の粒子が育ち、
2軸配向ができている様子が観察された。工業製品の競争では、最後は材料費の問題になるので、大いに期待される研究と言える。
ただし、質問にも出ていたが、鉄に伴う磁化の問題、また強度の問題など臨界電流が高くなっても課題は多い。
理研の金ら(1A-a07,08)は、NMR応用を目指してY系コイルの研究を行っているが、今回、NMRに欠かせない接続、また、遮蔽電流を
減らすための細線化の検討を発表した。接続では、バルクを介して、組成を調整して線材との接続を行っている。10 A程度であるが、
超電導電流が得られており、さらに諸条件を詰めることで高特性化が期待できる。また、細線化は簡単なカッターによる手法で行って
いたが、それでも臨界電流100 A程度が得られ、また、n値も25程度と元の線材からの大きな劣化は見られなかった。簡単な手法で
あるため工業化しやすいとは思われるが、今後、強度、長尺にわたるカッターの劣化、信頼性、切断溝の均一化、フィラメント同士の
電気的接触なども課題になろう。


5月26日(月)
B会場 10:30-18:00

Y系バルク(1) 1B-a01-06 座長 石原 篤

1B-a01:関(淡路マテリアル)らは、形状記憶合金を用いることで、バルク超電導体を673 K→77 Kに急冷してもにクラック等が発生
しなかったことを報告した。
1B-a02:太田(新潟大)らは、パルス着磁において、M字型形状の磁場分布を形成すれば、最終的な中心磁場が高くなること、逆に
台形型の磁場分布では、凸字型より中心磁場が低くなることを報告した。
1B-a03:岡(新潟大)らは、2個の種結晶を用いることにより、パルス着磁において、より低磁場から磁束侵入が起こるようになり、
発熱の低下に成功したことを報告した。
1B-a04:渡辺(新潟大)らは、パルス着磁の解析において、Jcに補正係数を掛け、さらにJcが種結晶からの距離に応じて減衰するモデル
を仮定することで、実験結果と解析結果が一致するようになったことを報告した。
1B-a05:横山(足利工大)らは、1箇所 1 mmの細孔を厚みの半分程度開けることで、低磁場(< 4 T)では磁束が侵入しやすくなったこと、
高磁場(> 6 T)ではフラックスジャンプが起きやすくなったことを報告した。
1B-a06:望月(岩手大)らは、Gd123バルクとMgB2バルクのハイブリットバルクに対しパルス着磁を行ったところ、MgB2の発熱による
磁場損失が大きく、ハイブリット化による磁束密度の向上は得られなかったことを報告した。


装置設計 1B-p01-05 座長 星野 勉



磁気遮蔽 1B-p06-08 座長 酒井 保蔵

3件の報告、同期回転機の磁気遮蔽による始動時リラクタンストルク発現、SMESコイル臨界電流増に関する磁力線制御手法、
MRIマグネットの漏れ磁場低減があった。それぞれ磁気遮蔽手法、研究分野が異なり、参加者の幅が広く、座長の力不足も
あって活発なディスカッションにできなかったことをおわびしたい。
1B-a06:西村ら(京大)は電気自動車の超電導モータ開発のため、回転開始時のトルク強化を目的として高温超電導磁気遮蔽体を
ローター内に挿入した場合の検討を行なった。適切な超電導磁気遮蔽体を挿入した場合、誘導同期トルクより大きい始動時リラク
タンストルクが発生することが予想された。電気自動車への超電導モータ応用の実用性についてのディスカッションがあった。
1B-a07:高野ら(東北大)はSMESにHTCコイルを活用する上で、線材節約を目的として、ソレノイドの両端を鉄材で覆い、線材への
磁場を抑制する手法を報告した。マルチポールソレノイドSMESにおいて、鉄材で覆った場合、最大で30%程度の線材節約が可能と
なった。鉄材の重量、鉄材に加わる磁力、断熱構造の中に鉄材を設置する場合は、渦電流による発熱や鉄材冷却の熱的負荷について
議論があった。
1B-a08:山本ら(三菱電機)はMRIマグネットの漏れ磁場低減技術を報告した。医療安全の見地から5ガウスラインを意識して漏れ
磁場を低減させる。1次コイルで測定に必要な磁場より過剰なアンペアターンを発生させ、複数の負のアンペアターンを発生させる
コイルで漏れ磁場をキャンセルする。1.5 Tマグネットでは、5ガウスラインを長さ4 m、半径2.5 mに納まるように設計し、3 Tマグ
ネットでも、ほぼ同じ5ガウスラインを維持することでマグネットの互換性を保っている。漏れ磁場を少なくするには、より過剰の
1次磁場とキャンセル磁場を発生する必要があり、コストがアップするなどの議論があった。


5月26日(月)
C会場 10:30-17:30

ITER 1C-a01-06 座長 岩本 晃史

1C-a01 小泉(原子力機構):ITERトロイダル磁場(TF)コイル及び構造物の調達の進捗について報告された。日本及びヨーロッパ
担当分は調達体制が整い、実機の製作を開始している。
1C-a02 山根(原子力機構):TFコイル実規模ダミーダブルパンケーキの試作について報告された。試作の結果、巻線導体長の管理
目標±0.01を達成した。また熱処理後の導体長変化を測定し、約0.06%の伸びを確認した。さらに導体の絶縁やラジアルプレート溝へ
の挿入工程についても確認した。得られた情報は実機コイル製作へと反映される。
1C-a04 諏訪(原子力機構):センターソレノイド(CS)用Nb3Sn導体のジャケッテイング時に素線の圧縮変形が起こるが、それが臨界
電流に与える影響について報告された。熱処理前の素線の長手方向に対し垂直に圧痕を加え、熱処理後臨界電流測定を行った結果、
ある深さ以上の圧痕は臨界電流を劣化させることが分かった。この結果をもとに臨界電流を劣化させないよう実機を製作する。
1C-a05 高橋(原子力機構):CS用超伝導導体のジャケッテイング時の素線の撚りピッチの変化について報告された。TF用導体と同様
に、ジャケット管への素線の引き込み時やその後のジャケット管の成形時に撚りピッチが変化することを確認した。しかしこの変化
は主として最終撚りに起こるため、導体の性能に与える影響は限定的であると考えている。


JT60SA/FFHR-d1 1C-p01-04 座長 槙田 康博

4件の発表のうち3件は原子力機構で建設が進むJT60SAの要素開発に関する内容で、残り1件はHTSを使用したヘリカルコイル
に向けた基礎技術開発に関する内容で発表された。質問は2,3あったが、議論としては低調であった。
1C-p01:村上(原子力機構)等はCSコイルからのNb3Snケーブルインコンジット口出し線と電流導入(フィーダー)側のNbTi
ケーブルインコンジットのシェークハンド型接続において要求値5 nΩ以下の0.7 nΩを達成する手法を確認したと報告した。
Nb3Snケーブルを銅パイプに入れて縮径・圧縮・熱処理しNb3Snケーブルから銅パイプへの焼結接続の後に半田による接続を
行う手法で実現した。今後はこの銅パイプへの挿入を省略しても焼結接続を確実に行う手法の確立を目指すそうだ。
1C-p02:神谷の代理の村上(原子力機構)等がJT60SAの輻射シールドの組立構造と結合部の要素開発について報告した。
1C-p03:大西(原子力機構)等は、JT60SAのクライオスタット内部の配管引き回し構造を、熱収縮や圧力損失を考慮して
検討した結果を報告した。
1C-p04:柳(NIFS)等はヘリカル型核融合炉FFHR-d1の概念設計の一環としてYBCOテープ線材の単純な積層へ銅ジャケット
+ステンレスジャケットを施したケーブルを用いたヘリカルコイルの工法検討とその要素開発を報告した。現地でのヘリ
カルコイル巻線に先立って、組み込み可能な長さ分のケーブルを正確な3次元ヘリカル形状に成型し、現地でケーブル接続
を行いながら巻線を行うという工法を提案され、そのカギとなるケーブル接続方法の紹介と確認試験結果を報告された。
テープ線材の積層構造を反映し、接続部は階段状に積層構造のテープ線材どうしを圧接(20~160 MPa)する手法で、100 kA
級で2 nΩの実現が確認されている。


石狩PJ 1C-p05-06 座長 八木 正史

セッションでの発表は2件であったが、会場は聴衆で一杯になり、注目の高さがうかがえた。また、講演内容の都合で発表順を
入れ替えて行った。
1C-p06:筑本(中部大)から、石狩市でのデータセンターへの電力輸送に関して全体計画、スケジュールの報告があり、直流
ケーブルを超電導にするメリットについて議論があった。
1C-p05:渡邉(中部大)から、低温断熱配管を評価し、構造を決定した。300 A、250 Aの鋼管内に超電導用の配管と戻り配管
を設けており、今後、布設・接続工事が重要になると思われる。


5月26日(月)
D会場 10:30-16:45

小型冷凍機/計測 1D-a01-06 座長 沼澤 健則

1D-a01 宮内(阪大): 0.1 W GM冷凍機2段目蓄冷器に希土類窒化物磁性蓄冷材を配置する場合について、充填量や積層
位置の依存性をシミュレーションで調べた。4.2 Kでの冷凍能力は従来の蓄冷材を大幅に上回る結果となった。しかし過去の実験
結果では従来の蓄冷材を超えるものではなく、計算と実験結果との乖離についてさらなる検討が必要である。
1D-a03 許(住重)、1D-a04 包(住重):超伝導単一光子検出システム冷却用2 K GM冷凍機の開発と実験結果に関する発表で、
ほぼ設計目標値を達成する結果が得られた。熱交換器や蓄冷材配合の最適化とシリンダーの短縮化をはかり、現行機比で
19%短縮するとともに、2.2 Kで20 mWの冷凍能力を±20 mKの安定度で発生した。今後、ここで開発された新技術が4 K冷凍機
にも波及することを期待する。


不純物排除 1D-p01-04 座長 三浦 大介

1D-p01:酒井ら(宇都宮大)はネオジウム磁石による回転ドラム型磁気分離装置による磁化活性汚泥の連続分離を発表した。
今まで高濃度汚泥の分離装置は開発されていなかったが、今回はその基本設計に関するパラメーターを調査した。最大磁場は
0.5 Tで磁石はドラム内部に固定されている。小型試験装置を作製し、ドラム回転数と流路高をパラメータとして最適な分離条件
を求めた。
1D-p02:水野ら(大阪大)は磁気分離による火力発電所給水中の酸化鉄スケール除去についての研究を行った。圧力15~70気圧、
温度200~270℃の条件火での磁気分離が新しい。高温高圧下でマグネタイトとヘマタイトからなる模擬排水の磁気分離実験を行い、
磁気分離が可能であることを示した。
1D-p03:桑原ら(大阪大)は地熱発電で地熱水のパイプにスケールとなる問題が生じている地熱水からのシリカの磁気分離除去の
検討を行った。熱源を利用して塩化第一鉄との磁性フロックを形成させて磁気分離を行うことによりシリカ濃度を激減させること
に成功した。
1D-p04:酒井ら(宇都宮大)は放射能汚染された汚泥の除染の簡便な方法として、汚泥水中のネオウム磁石のマグネットバーによる
磁気分離効果を検討した。汚泥中の磁性粘土質に含まれる放射性元素が分離されることによると考えられ、分離回数を増加させる
につれ放射線量の減少が確認された。




5月26日(月)
P会場 ポスターセッションI 14:15-15:30

センサー・SQUID計測 1P-p01-02 座長 日高 睦夫

1P-p01:鉄道総研の山田等は、超電導電磁石内部の温度を測定するために、熱侵入が少なく電気絶縁性が高い光ファイバー
温度センサーの開発を行っている。このセンサーは温度による光ファイバーの伸縮を利用しており、感度を向上するために
亜鉛をめっきでファイバーに付着している。めっきのためにファイバーに金属をコーティングする工程において従来は
スパッタ法を用いていた。今回の発表では、この金属コーティングにニッケルの無電解めっきを用いることにより、
スパッタ法と比べて低コスト化が図れることが報告された。試料を液体窒素に浸すテストが行われており、剥離が生じない
ことが確認されている。温度センサーとしてのテストはこれからであり、次回の報告が待たれる結果であった。
1P-p02:近畿大の廿日出等は、高温超電導SQUIDを用いた摩擦攪拌接合(FSW)と呼ばれる新しい接合技術の評価結果に
ついて報告した。FSWによって接合界面に発生する金属化合物は数~数十μmの厚さであり、この部分を非破壊的に検査
できる方法としてSQUIDが期待されている。FSW界面を通過する方向に電流を流し、SQUIDで測定することによって接合部の
導電性分布が観測できる。実験の結果、引っ張り試験において良好な結果が得られたサンプル中央部の導電性が高いことが
SQUID測定により示され、FSW界面の導電性と強度に相関があることが示された。


HTS線材特性 1P-p03-08 座長 一野 祐亮

本セッションでは、REBCOコーテッドコンダクター(CC)の評価およびFe系超伝導体の作製と評価について6件のポスター発表が
あった。
1P-p03:小野寺(九大)らは、BaHfO3(BHO)を添加したGdBCO CCのE-J特性を通電法、磁化法両方で評価し、パーコレーション
モデルを用いて比較を行った。
1P-p04:田中(九大)らは、BHO+GdBCO CCをしのぐ超伝導特性が得られることが最近報告されたBHO+EuBCO CCについて磁場中
E-J特性を評価した。
1P-p05:西浦(九大)らは、GdBCO CCを外径8 mmと10 mmのボビンに巻き重ねることで異なる曲率半径の歪みを加えた後に、
走査型ホールプローブ顕微鏡(SHPM)を用いてCCのIc分布を評価した。これによって、曲げ(曲率半径)に対するIcの変化を
一度に評価可能である。結果として、GdBCO層に引張応力がかかる曲げの場合には曲率半径16 mm程度でIcの低下がみられたが、
圧縮応力の曲げに対してはIcに変化は見られなかった。
1P-p06:桜井(新潟大)らは、変圧器用の鉄芯に矩形の溝を掘り、そこにCCを設置した場合に、CCの溝中における位置によって
交流損失が変化することを報告した。
1P-p07:井澤(首都大)らは、KFe(Se,S)2を前駆体としたPIT法を用いてKFe2(Se,S)2超伝導線材の作製を行った。これによって
合成が困難なKFe2(Se,S)2の作製に成功し、Tconset=34 Kを得た。
1P-p08:細谷(九大)らは、SHPMを用いてBa(Fe,Co)2As2エピタキシャル薄膜の磁化分布を測定し、Jc分布を評価した。その結果、
Jc分布に偏りが有ることを可視化し、通電法や磁化法によるJcの評価では真のJcを評価出来ていない可能性があることを示した。


磁気冷凍機/冷却システム(1) 1P-p09-13 座長 淵野 修一郎

1P-p09:宮崎らは、鉄道車両用空調の省エネ用に磁気冷凍機を開発している。今回は温度スパンを大きくするため、ユニットA (Gd)
とユニットB (GdY)をカスケードにすることにより最大温度差21 Kを得た。
1P-p10:村山らは、磁気冷凍機用磁性材料La(Fe0.88Si0.12)13の熱伝導率測定について報告している。測定方法は定常熱流を与え、
温度勾配から求める方法であるが、ヒートリーク軽減のため、いろいろと工夫されている。水素化するともろくなるので樹脂成型する
ため、真の熱伝導率が測定できない。樹脂の熱伝導率を補正できるような工夫が必要となる。
1P-p11:高田らは宇宙機搭載用断熱消磁冷凍機(ADR)の超伝導ソレノイドをコンパクトにするため、ボビンレス超伝導マグネットを
開発した。4つ割りのテフロンボビンに一層毎にエポキシ樹脂(ニトフィックス)塗巻し、樹脂硬化後、ボビンを引き抜く。製作に
1週間程度かかり、非常に手間のかかる作業ではあるが、特性上、特に問題なく励磁可能であった。
1P-p12:植田らは、TES型X線マイクロカロリメータ冷却用の連続作動型断熱消磁冷凍機(Continuous ADR)のパワーリードにREBCO線材
の保護層のAgによる熱伝導への影響を調べている。Agは熱伝導がよいため削る等の工夫をしたが、あまり改善の余地がなかった。
1P-p13:鈴木らは鉄道用超電導ケーブル用ベローズ式ポンプを開発した。脈動を抑えるため、大口径と小口径のベローズおよび逆止弁
を組み合わせている。脈動の少ない、大容量、高揚程のポンプが開発でき、後は長期信頼性の検証が必要となる。


RE系応用 1P-p14-21 座長 岩井 貞憲

1P-p14 池田(早大);無絶縁REBCOコイルについて、励磁特性の解析と実験結果との比較がなされた。層間接触抵抗が大きくなる
と、ターン間の転流が抑制され、通常の励磁時間に対する遅れが小さくなるとのことであった。
1P-p15 大木(早大);無絶縁REBCOコイルについて、電流遮断時のコイル中心磁場の減衰の解析と実験結果との比較がなされた。
ターン数の異なるコイルにおいても、求められる層間接触抵抗はほぼ一致する結果が得られているとのことである。
1P-p16 持田(早大):REBCOコイルの遮蔽電流の影響を、線材幅、負荷率、コイル積層数をパラメータとして調査した結果について
報告がなされた。コイル内でも負荷率の高い積層端部側のコイルは、負荷率が高くなるにつれて、遮蔽電流の流れる領域が制限されて
いく傾向が示された。
1P-p17 名和(千葉大);非絶縁REBCOコイルのクエンチ挙動について、ダブルパンケーキコイルを積層した積層コイルの熱暴走試験
結果の報告がなされた。局所的に熱暴走したパンケーキコイルからターン間における転流が始まり、中心磁場が不連続に低下する
現象が示された。また、軸方向の電磁力のアンバランスにより、電極部が破壊されコイルは損傷したとのことで、非絶縁REBCOコイル
の新たな課題が示された。
1P-p18 武藤(東北大);LTSコイルとREBCOコイルとを組み合わせた高磁場マグネットにおいて、LTSコイルがクエンチした際、REBCO
コイルには事故電流が流れる。この時の焼損条件について検討した結果が報告された。
1P-p19 髙橋(昭和電線);500 AクラスのYBCO超電導電流リード(nPAD-YBCO®)について、ヒートサイクルの影響評価と引張り試験の
結果が報告された。40回のヒートサイクルでもIcの低下がなく、また許容引張り歪は1.2 %である。今後、磁場中での特性についても
検証していくとのことであった。
1P-P20 槻木(九大);Y系並列導体の転移にともなう遮蔽電流の発生現象を回路解析した結果について報告がなされた。従来の臨界
状態モデルに替え、Y系導体に適したn値モデルを採用したところ、遮蔽電流による交流損失は、従来の計算手法に比べ、1桁から2桁
異なるとのことであった。
1P-p21 河原(九大);Y系並列導体を用いた多層ソレノイドコイルについて、寸法やn値、通電流の周波数が素線間の分流に与える
影響について報告がなされた。計算ケースによっては、分流の影響が顕著になる結果が示された。


廃水処理 1P-p22-24 座長 西嶋 茂宏

1P-p22 本間(宇大):酪農排水中の懸濁物質を除去する試みである。懸濁物質が拝趨中に含まれることがあるが、難生分解性のため
活性汚泥法では処理できなかった。そこで、凝集剤でフロックとし、マグネタイトで磁気シーディングした後、永久磁石を用いた磁気
分離を施すことで、良好な分離効率を得ている。
1P-p23 山岸(宇大):廃棄乳に含まれる抗生物質の磁化活性汚泥法による無害化の検討である。模擬廃棄乳に家畜用抗生物質である
テトラサイクリン(TC)10 ppmを混合させ実験を行った。余剰汚泥の引き抜きなしに運転が可能であるとともに排水中にTCが検出され
なかったため、TCの分解が起こっているものと推定している。
1P-p24 小室(宇大):高濃度食品排水を磁化活性汚泥法で処理する試みである。COD、2000 ppmの模擬排水を除去率93%で、汚泥の
引き抜きなしに50日間運転することができている。負荷を大きくした場合(処理量で1.5倍)は、性能が劣化が見られたため、さらなる
性能の向上が必要であるとしている。




5月27日(火)
A会場 9:45-17:45

医療用加速器コイル 2A-a01-07 座長 植田 浩史

2A-a01 田﨑(東芝): 本発表を含め連続3件が経産省プロジェクト「回転ガントリー用高温超電導可変磁場マグネットの
開発」の関連発表であった。本発表は、プロジェクトの概要報告で、数値目標および実施項目について説明があり、2017年度
までにRE系線材を用いた偏向マグネットを1台試作するとのことであった。
2A-a02 高山(東芝):前発表の続きで、ビーム光学設計から求めた回転ガントリーのマグネット構成、マグネット設計に
ついて報告した。磁場解析によれば中心断面ミッドプレイン上での相対磁場精度は最大0.0275%で、目標の0.1%以下を計算上
では達成できている。マグネットの構成・配置について、実際の運転を想定した上で最適化されているのか、議論があった。
2A-a03 小柳(東芝):回転ガントリーの偏向マグネットには、「鞍型カーブドコイル」が必要になる。コイル試作検証を
目的として、前発表のコイル設計に基づいた特徴的な形状を模擬したRE系小コイルを設計・試作した。超電導特性の劣化が
ないことを確認した。
2A-a04 高山(東芝):本発表を含め連続3件がJSTのS-イノベの成果の報告であった。本研究では、FFAG加速器に高温超電導
の適用を検討している。スパイラルセクタFFAGには、平面部と立体部がある複雑な三次元形状をしたコイルが要求されるが、
今回は、ひずみの少ない三次元コイル形状を設計し、コイルを試作した結果について報告した。RE系線材の捻りと超電導特性
の関係について実測データがあるか、質問があった。今回は劣化しないと言われている範囲で製作しているとのことである。
2A-a05 小柳(東芝):加速器用超電導マグネットで想定されるビーム衝突(ビームロス)による温度上昇の影響を解析で
評価した。
2A-a06 雨宮(京大):スパイラルセクタFFAGに必要となる梯子型コイルで構成されるマグネットの磁場設計について報告した。
小型コイルを製作する予定とのことであった。巻線精度が確保できるか、質問があった。
2A-a07 宮原(京大):高温超電導線材を用いた、3種類の開口角の異なる鞍型コイルを対象にコイルエンド部の形状について
考察し、これを基に磁場設計を行った。巻線の製作性について、議論があった。


非絶縁コイル 2A-a08-10 座長 戸坂 泰造

2A-a08 柳澤吉紀(理研):非絶縁REBCOコイルをNMR磁石へ適用することを目指して小型レイヤー巻きコイルを試作し、実験的
に評価した結果について報告された。コイル軸方向に配置したホール素子で観測されたシングルターンモード(ターン間転流)
の伝播速度は、300~2,000 mm/sであり、絶縁コイルの常電導伝播速度と比べて非常に速いことがわかった。
2A-a09 柳澤杏子(千葉大):ほぼ同サイズで試作したレイヤー巻きとパンケーキ巻きの非絶縁コイルの熱暴走特性比較について
報告された。臨界電流の172%で熱暴走が起こったレイヤー巻きコイルに対し、パンケーキ巻きコイルでは140%の電流値で熱暴走が
発生した。これは、パンケーキ毎に熱的、電気的に絶縁されていることが原因である。
2A-a10 王(早大):無絶縁コイルの電磁的・熱的挙動を詳細に把握することを目的として、層間抵抗やインダクタンスを詳細に
モデリングした電流分布解析と、温度分布解析とを連成させた数値解析による過電流通電特性評価ついて報告された。この数値
解析により、シングルパンケーキコイルの過電流通電試験で得られた複雑な磁場変化を再現することができた。


5月27日(火)
B会場 9:45-12:15

Y系線材Jc特性 2B-a01-04 座長 山崎 裕文

2B-a01 堀井(京大):YBCO 粉末を磁界中で回転させることで3軸を揃えた試料を作製するのに双晶の存在が配向の障害となるため、
Fe, Co, ZnなどをドープすることでCuO鎖の酸素配位構造の制御を試みている。
2B-a02 三浦(名大):低温成膜(LTG)手法で作製した BaHfO3(BHO) 添加 SmBCO 薄膜では、直径が5 nm程度の細い BHOナノロッド
が高密度に生成する。通常のPLD法で作製した薄膜と磁界中Jc特性を比較した所、77 Kでは劣るものの、40 Kで凌駕した。実用的に
興味深い結果である。
2B-a03 吉田(名大):PLD 法で作製した BHO 添加 SmBCO 薄膜・無添加薄膜について縦磁界下でJcを測定したところ、無添加
薄膜とBHO ナノロッド入り薄膜では、Jcが磁界とともに単調に減少したのに対して、BHO ナノ粒子が入った薄膜では 0.3 T付近に
ピークが観測された。その原因はまだ分かっていないが、座長から、「縦方向の印加磁界と自己磁界が合成された、H // ab から少し傾いた
方向の磁界でab方向よりもJcが増加した訳である。少し大きなナノ粒子を含む薄膜でH // c方向にブロードなピークが観測される現象
と関係があるのではないか。」とのコメントがあった。
2B-a04 井上(九大):面内配向性の異なる IBAD-PLD 法 GdBCO 線材の磁界中Jc特性を比較したところ、Δφが 2.72°から 1.98°に
低減することで、広い温度・磁界領域のJcが向上し、独自のパーコレーションモデルで向上の要因について議論した。「Δφについて、
半値幅のみで議論しているが、その分布はどうなっているのか。」との質問があったが、回答が無かったため、今後、関連を調べて欲しいと思う。


酸化物高Jc化 2B-a05-09 座長 土井 俊哉

本セッションでは、RE123系およびBi系超伝導材料の高Jc化に関して5件の発表があり、活発な議論がなされた。
2B-a05:山崎ら(産総研、金沢工大)は、CVD法でSrTiO3単結晶基板上に作製した高品質なBi2212薄膜(Tc=86 K)の電気的測定
と断面TEM観察を行ない、Bi2212薄膜中のナノ構造欠陥がJc、n値などの特性に与える影響を議論した。
2B-a06:下山ら(東大院工、ティーイーピー)は、無配向Y123焼結体(多結晶体)のJc向上を目指して焼結前の圧粉体密度向上
の効果に関して報告を行った。高温焼結では結晶粒粗大化とクラック発生によりJcが低下するため、プレス圧力を高めて高密度の
Y123圧粉体を作製した後に860℃程度の比較的低温で焼結することでJcが向上することを報告した。
2B-a07:元木ら(東大院工、住友電工、東洋鋼鈑)は、Y、Ba、Cuのアセチルアセトン塩溶液に、塩酸、金属M(MはSn、Zr或いはHf)
を含む有機酸塩溶液を微量混合した溶液、を用いたMOD法(FF-MOD法)によってSrTiO3単結晶および配向金属クラッド基板上にMと
Clを共ドープしたYBCO薄膜の作製を行った。Clドープの効果によりどのMドープに対しても1mol%まで結晶配向が維持することが
可能になり、磁場中でのJcが無ドープYBCO薄膜に比べて大きく向上することを報告した。
2B-a08:寺西ら(九大、超電導工研)は、BaZrO3人工ピンを導入したYBCO膜をTFA-MOD法で作製する場合の結晶成長過程の考察を
行うために、熱処理中の試料抵抗の測定を行い、本焼成時のin-situ電気抵抗測定がYBCO生成挙動考察に有益な情報を与える可能性
を示した。
2B-a09:内山ら(宮城教育大)は、Bi2O3、SrCO3、CaCO3、CuOを塩酸もしくは硝酸に加えて作製したイオン溶液を用いたスピン
コート法により、MgO単結晶基板上に2軸結晶配向したBi2212薄膜が作製できることを報告した。


5月27日(火)
C会場 9:30-12:30

高温超電導冷却 2C-a01-06 座長 仲村 直子

本セッションでは高温超電導冷却に関する6件の報告があり、活発な議論が行われた。
2C-a01:大野(前川)は、ブレイトン冷凍機を使用した液体窒素循環システムを開発し、運転性能・制御性に問題の無いこと、3週
間の連続・無人運転に成功したことを報告した。
2C-a02:小松(前川)は、NEDOプロジェクトで開発したブレイトン冷凍機の構造について示し、冷凍能力、COPが目標値以上であった
こと、COP一定での容量制御を考案したことを報告した。
2C-a03:下田(前川)は、1年以上の高温超電導ケーブル実証運転を大きな問題なしに無事に終えたこと、さらに冷凍機の冷凍能力
低下に対して定期的な真空引きが必要であったことを報告した。
2C-a04:佐藤(早大)は、超電導ケーブルの接続部間での密閉銅フォーマにおける短絡事故時の圧力上昇について解析を行い、
フォーマ部内圧10 MPa程度までの圧力に超電導ケーブルが耐えられることを報告した。
2C-a05:白井(京大)は、抵抗型超電導限流器のすばやい超電導復帰を期待してREBCO線材にフィンを取り付けることで積極的に
冷却を促進させること、フィン形状によって効果の違いが得られることを報告した。
2C-a06:渡邉(京大)は、高温超電導誘導同期回転機で使用する積層珪素鋼板には積層方向と軸方向の熱通過率に異方性があり、
積層方向の接触熱抵抗を減らすことで回転子コアの冷却効果が期待出来ることを示した。


装置評価・制御 2C-a07-11 座長 野村 新一

装置評価・制御のセッションでは5件の研究報告があり、研究分野もケーブル、SMES、回線機器などの電力応用
からドラッグデリバリーシステムに関する磁場応用に至るまで多岐にわたる内容であった。発表概要は以下の
通りである。
2C-a07:VYATKIN(九工大)では、高温超電導ケーブルのスパイラルピッチを最適化し自己磁場分布による縦磁界
効果を期待するケーブルに関して、Bi系線材を用いた試料の実験結果と解析結果に関して報告された。セッション
ではY系を使用した場合やピッチの精度に関する議論がなされた。
2C-a08:竹内(阪大)では、ドラッグデリバリーシステムを想定したマグネタイト粒子を回転磁場によって位置制御
する基礎実験の報告がされた。講演では血管を模擬した配管に磁性粒子が混ざった水を流し、回転磁界を与える
ことで磁性粒子を所定の位置に留める様子の実験映像も紹介された。
2C-a09:佐藤(東北大)では、自然エネルギーと水素エネルギーシステムを組み合わせた電力システムにおいて、
自然エネルギーの出力変動を抑制するためのSMESの制御方法に関する報告がされた。
2C-a10:中村(京大)および2C-a11:村中(京大)ではともに高温超電導誘導同期回転機に関してトルク-速度制御
特性の評価を中心に報告がされた。従来のかご型誘導機の最大効率制御と同様にACドライブ特性の評価の段階
にまで研究が進展していることが伺えた。


5月27日(火)
D会場 9:45-12:30

LTSデバイス(1) 2D-a01-05 座長 下山 淳一

LTSデバイスセッションは前回学会より始まったもので今回は概ね20名以上の参加があり、徐々に活発になって
いる印象を受けた。
2D-a01:横国大の坂下らは高速・低消費電力を特徴とするSFQバタフライ演算回路において符号(±)付き演算が
できるように、絶対値変換→2の補数変換の過程を持つ4 bit回路を設計・製作した結果を報告した。89 GHzまで
動作したが虚数部の回路が不安定で、乗算器の動作パラメターのバラつきが原因とされた。bit数を増やすと乗算
器の数がどんどん増え、また先々冷凍機冷却方式に変えた場合には温度変化も起こり得るので、このバラつきへ
の対応が重要であると思われる。
2D-a02:横国大の彭らは現在のコンピュータにおいてメモリ性能の向上の遅さが律速になっていることを背景に
SFQ回路を用いたコンピュータの開発を目的としている。今回は単精度浮動小数点乗算器の高速動作実証を試みた
結果を報告し、50 GHz以上の周波数で完全動作に成功したが、露光時のアライメント誤差に起因すると考えられる
回路がわずかに歪んで見える部分と動作余裕度の小さい部分が一致していることから、これが動作不良を引き起こ
す原因となっているという推測が述べられた。
2D-a03:名古屋大の田中らは低消費電力化が可能な低電圧SFQ回路において高速スイッチングを実現するため、
チップのJcを高めること、安定動作のため円形の小型ジョセフソン接合部は0.564 μmφを採用すること
によって25 kA/cm2の高いJcを持つチップが90 GHzまで動作したこと報告した。
低電圧化は動作をやや遅くするが消費電力低減が非常に大きいとのことで、冷凍機冷却方式を有利にすると思われた。
2D-a04:横国大の佐野らはTOF-MS(飛行時間型質量分析法)の高感度化に超伝導ストリップイオン検出器(SSID)を
用いた場合の検出面積増加の課題に伴う配線からの熱侵入増大の問題に対してSFQ回路を信号処理回路に組み込む
方法を提案している。今回は作製した装置によるリゾチームの質量分析結果が報告されたが、十分な精度、定量性
に至っておらず、今後の高品質試料を用いた追試の結果に期待したい。
2D-a05:JSAS/JAXAの林らはSTEM-EDS用のTES(超伝導転移端センサ)方式のカロリメータにおける多ピクセル素子の
設計・作製およびTcのばらつきについて報告した。配線数を減らして熱流入を抑制するために8ピクセルを直列に配
した回路が作製され、この8ピクセルのTcのばらつきは2 mK以内と小さいことが示された(Tcは195 mK)。但し、TES
に配線を設けた試料において、ゼロ抵抗近傍での転移が鈍く低温側に大きくすそを引く挙動となることが気になった。


LTSデバイス(2) 2D-a06-10 座長 島崎 毅

2D-a06藤巻(名大)は、単一磁束量子回路に代表される金属系超電導集積回路を0.1 W@4 KのGM冷凍機による冷却で動作
させることを目標に掲げ、様々な断熱技術や発熱抑制技術を導入した場合の効果を見積もり目標達成の道筋を示した。
その中で、YBCO広帯域断熱配線の有効性が強調された。直流用の配線として長尺の細銅線を使用した場合との比較に
ついて質問があった。
2D-a07佐々木(産総研)らは、プログラマブル・ジョセフソン電圧標準素子(PJVSチップ)の評価・選別のためのシステム
を開発した。PJVSチップは産総研で開発されたもので、11 K-12 Kで動作し出力は2 Vである。システムの自動運転により、
PJVSチップの選別に必要な評価を半日以内で行えるようになった。質問への対応では、既に市場にある製品と組み合わせる
ことで産業現場における20 Vまでの電圧標準として拡張できる可能性も言及された。
2D-a08丸山(産総研)らは、機械式冷凍機による冷却で動作するPJVSシステムを開発し、直流電圧標準への応用を図った。
その特性を液体ヘリウムによる冷却を必要とする従来のジョセフソン電圧標準システムと比較し、測定の不確かさの範囲で
特性が一致する良好な結果を得た。一方で、PJVSチップ成膜の一部不均質に起因する想定以上の発熱の可能性を見出し今後
の課題とした。
2D-a09天谷(産総研)らは、機械式冷凍機による冷却で動作するPJVSシステムを開発し、10 Hz以下の交流電圧標準への
応用を図った。そして、10 Vの交流電圧実効値の高精度測定に成功した。質問への対応では、周波数軸上での不確かさも
十分に小さいこと、低周波の交流電圧標準は、地震計など振動センサーの校正への応用も期待されていることが言及された。
2D-a10明連(埼玉大)らは、外部弛張振動回路に結合した二重弛張振動SQUID(DROS)の高速動作について報告した。弛張
振動周波数の上限に関する質問に対しては、10 GHzまでは問題なく、アップ・ダウンカウンターの追随性に配慮をすれば、
15 GHz程度までの向上は期待できるとのことであった。


5月27日(火)
P会場 ポスターセッションII 15:20-16:35

冷凍機/冷却システム(2) 2P-p01-03 座長 仲井 浩孝

2P-p01:増山(大島商船高専)らは、GM冷凍機の蓄冷器にベークライト棒を挿入して蓄冷器の形状を変化させ、
形状による冷凍性能の変化を測定した。ベークライト棒の挿入による冷凍能力向上の理由や、ベークライト棒を
細くして数を増やした場合の性能変化などについての質問があった。
2P-p02:高橋(エア・ウォーター)らは、50 Kの温度領域に最適化した小型冷凍機として、高出力で高効率のパルス
管冷凍機を開発した。また、コールドヘッドをリターンタイプとし、冷凍機として使い易い形状となっている。
2P-p03:富田、鈴木(鉄道総研)らは、直流電気鉄道用超電導ケーブルを液体窒素で循環冷却するために、スター
リング冷凍機にターボブレイトン冷凍機を付加した大容量冷却システムを構築した。このシステムによって2.8 kW
(@65 K)の冷凍能力が得られ、数kmの超電導ケーブルの熱負荷にも対応できるようになった。


超電導バルク 2P-p04-08 座長 横山 和哉

2P-p04:遠藤(岩手大)らはMgB2バルクの磁場中冷却による捕捉磁場のシミュレーションを行った。Tiドープ量の
異なるバルク体のJc-B特性を同定し、実験結果を再現できることを示した。
2P-p06:赤坂(鉄道総研)らはMgB2バルクをボール盤や鉄ドリルで加工し、クラック等が入らないことを示した。
この技術はNMR用にリング状に加工する等、様々な応用が期待される。
2P-p07:石原(鉄道総研)らはMgB2バルクのヒステリシス特性を測定し、点対称の四角形のループが得られ、さらに
10 Kで4 Tの磁場を得られることを報告した。現在の試料は密度が50%程度であり、密度を向上することでさらに特性
の向上が期待できる。
2P-p08:内藤(岩手大)らはEu系バルク体の熱伝導率を測定した。EuBaCuOバルク体はNMR/MRI応用で用いられており、
数値解析のための物性値として適用できる。また、Y系やGd系バルク体の特性と大きな違いがないことを明らかにした。


MgB2(1) 2P-p09 座長 一木 洋太

2P-p09:藤井(NIMS)らは、予め炭素置換したMgB2-xCx粉末を充填粉とするex-situ法MgB2線材のJc-B特性について報告した。
粒間結合性を改善するために、充填粉にMgおよびMg, Bを添加した線材を試作したところ、Mg添加では添加量の増加とともに
Jcは低下したが、Mg,Bを添加するとJcは改善した。ただし添加量が多くなると高磁界側でJcが低下した。


Y系線材(2)/薄膜 2P-p10-13 座長 堀井 滋

2P-p10:金(理研)らは、RE123の中で低い包晶温度をもつYb123溶融凝固バルクを利用したGd123線材の接合手法を提案した。
溶融凝固バルクとして初期組成Yb:Ba:Cu=1:2:3で熱処理したものを利用しYb211の混入を極力低減させた。Ic測定などの報告は
なかったが、900℃程度での接合が可能であることを示した。
2P-p11:上瀧(熊大)らは、PLD法で作製したBaMO3/YBCO擬似多層膜(M=Sn,Zr,Hf、100層)のJcの磁場印加角度依存性について
報告した。この実験では、3次元的磁束ピンニング点としてのBaMO3相の導入を想定しているが、YBCO層の層厚が薄い場合、
H // c方向にJcの磁場角度依存性にピークが現れることを明らかにした。つまり、c軸相関ピンの存在を示唆しており、YBCO層
の層厚が薄い場合、BMO層の歪みの影響が解消されずBMOがc軸方向に相関をもって成長したためであると結論した。
2P-p12:古木(熊大)らは、さまざまな交差角で重イオン照射したGd123コート線材におけるJcの磁場印加角度依存性について
報告した。15°~75°までの15°ごとで交差させたところ、必ずしも交差角でJcの極大が現れるわけではないことを示した。
また、45°のときに最も異方性の低いJcの磁場印加角度依存性が得られた。
2P-p13:杉原(名大)らは、高圧合成法だと95 Kの臨界温度をもつとされるSrCuO4物質(正方晶)の薄膜作製(Nd:YAG-PLD法)について
報告した。当該発表では、CuO一次元鎖構造をもつ斜方晶Sr2CuO3薄膜を作製したのち、オゾンによるin-situアニールで相生成
を試みている。現状、正方晶構造への転換は実現しているものの超伝導転移は観測されておらず、系への十分な酸素ドーピング
が行われていないと結論した。


電力応用 2P-p14-19 座長 横山 彰一

本セッションでは、高温超電導の電力応用に関し6件の発表がなされた。
2P-p14:熊谷(東大)らは直流送電超電導ケーブルの熱負荷について、スーパーインシュレーション(SI)の熱侵入量を解析により
検討。SIが圧縮された場合の性能低下を考慮し熱流束を計算、評価した。
2P-p15:銭(東大)らは直流電気鉄道用超電導ケーブルにおいて変電所から最短距離で地落事故が発生した場合の短絡電流を
解析し、超電導による事故電流抑制効果を検証した。
2P-p16:大坪(九大)らは20 MVA級超電導変圧器をREBCO線材を用いて設計し、突発短絡事故が発生した場合の短絡電流を
解析。限流効果を考慮した事故検出限界を検討した。
2P-p17:猿渡(九大)らは回転子にY系超電導線を用いた洋上風力用超電導発電機を設計した。設計では、軸長、ポール数を変化
させて検討。重量最小条件を見いだした。
2P-p18:許(東京海洋大)らは回転子、固定子を高温超電導化し、鉄芯と組み合わせて固定子の交流損失を低減した風力発電機
を提案。大幅な重量低減が期待できることを検討。
2P-p19:二村(秋田県立大)らは高温超電導による永久磁石浮上の振動ダンピングに磁性流体を提案。今回は、交流磁界を印加
して振動観測し解析方法が妥当であることを確認。


核融合/加速器(1) 2P-p20-22 座長 中本 建志

今回の学会では、核融合や加速器について多くの報告が見られたが、テーマ毎に単独のセッション(ITER、JT-60SA/FFHR-d1、
医療用加速器)が設けられた関係で、本セッションの発表件数は幾分少なく、合計3件のポスター発表だった。
2P-p20では、総研大(NIFS)・寺崎が、FFHR-d1に向けた10 0 kA級高温超伝導導体の臨界電流測定結果と解析結果について報告
した。導体は、GdBCO線材を銅ジャケット内に積層し、外側からステンレスジャケットで支持する構造となっており、短尺導体
によるジョイントを含むレーストラック形状のサンプルを4.2 K, 0.45 Tで118 kA通電できた。パーコレーションモデルを導入
したモデル計算では臨界電流は119 kAと予測されていることから、サンプルは早期クエンチすることなく本来の性能を発揮して
いると考えられる。
2P-p21では、今川がNIFSに建設中の導体試験用15 T大口径マグネットの基本設計について報告した。初期段階では13 T、ボア径
700 mmの試料環境が提供される予定で(将来には15 Tに増強可能な設計)、実現が今から楽しみである。
東工大・高村(2P-p22)は、無冷媒で運転できる超伝導加速空洞システムについて報告した。ピルボックス空洞を単独で小型
冷凍機に接続した場合の冷却試験では、空洞が4 K以下に冷却できる事が確認できた。原理検証のためには、今後カプラーなどを
接続して実際に高周波を入力した場合の試験結果が待たれる。


電磁解析 2P-p23 座長 馬渡 康徳

2P-p23:冨中は多角形断面をもつ無限長の導体における二次元磁場やインダクタンスを複素平面内の積分として計算する方法
について検討した。磁場計算は Beth の方法に従って問題なく計算可能であるが、インダクタンス計算には複素関数の取り扱い
に注意する必要があることを指摘した。




5月28日(水)
A会場 9:30-15:45

次期定常強磁場施設 3A-a01-05 座長 松本 真治

東北大学金属材料研究所において開発中の25 T無冷媒超伝導マグネット(25 T-CSM)に関連する5件の報告があった。
3A-a01 杉本 昌弘(古河電工):大型強磁場超伝導マグネット用に開発された、Nb-rod法-Cu-Nb強化型Nb3Sn線材を素線としたラザフォード
ケーブルは、事前曲げ効果によるIcの向上をプラスした、リアクト・アンド・ワインド法で製造される25 T-CSM用Nb3Snコイルが要求する
特性を満足するものであり、量産製造性にも優れている。
3A-a02 大保 雅載(フジクラ):25 T-CSM用GdBCOコイルのために、自己磁場・77 Kの液体窒素中でのIcが250~348 A、n値が
20~48の特性を示す、70条分のGdBCO線材(5 mm幅×75 μm厚基板×20 μm厚銅メッキ)が製造された。
3A-a03 宮崎 寛史(東芝):25 T-CSM用GdBCOコイル製作のための要素技術試験を、線材の剥離対策として径方向に発生する
熱応力の低減を考慮した5個の試験コイルを用いて行った。1個のコイルが劣化したが、線材剥離に対して弱い箇所があるためと
考え、剥離に対して弱い部分を補強する目的で、線材の銅メッキを厚くしたり、銅メッキの上に銅テープを貼ることで補強した
線材で製作したコイルでは劣化がないことを確認した。
3A-a04 小黒 英俊(東北大):25 T-CSM用Nb3Snコイルでは、250 MPaのフープ応力の発生が想定されている。Cu-Nb強化型Nb3Sn
ラザフォードケーブルの多層コイルを製作し通電試験を行った結果、約230 MPaまでの電磁力をかけることができ、最大で0.205%
のひずみが発生していることがわかった。素線と多層コイルの応力-ひずみの関係が一致していることがわかった。
3A-a05 淡路 智(東北大金研):25 T-CSM用GdBCOコイル用線材の低温強磁場Jc特性を、直接測定ではなく、銅メッキのない線材
で製作したブリッジの四端子法測定と銅メッキした線材の磁化法測定により評価した。25 T-CSM用GdBCOコイルの許容温度限界の
20 Kにおいても十分なJc特性を有していることがわかった。ブリッジの四端子法による測定結果と磁化法による測定結果は、スケー
リングにより一致した。


RE系コイル 3A-a06-10 座長 柳澤 吉紀

フジクラの大保ら(3A-a06)は、IBAD/PLD法で作成された3種類の構造を持つRE系線材の耐剥離特性を、エポキシ含浸コイルの
通電特性により評価した。銅テープで線材を包み込むようにラミネートしたフォーミング構造では、銅テープ張り合わせ構造や、
銅メッキ構造の場合より耐剥離特性が高いことを示した。
フジクラの藤田ら(3A-a07)は、REBCO含浸コイルの伝導冷却下のクエンチ挙動を報告した。常伝導伝播速度は温度が低く、負荷
率が高いほど早いことを示した。
東芝の岩井ら(3A-a08)は、劣化を回避するREBCO含浸レーストラックコイルの製造法として、これまで同社で確立してきた巻線
部を分割する方法を用いた結果を報告した。4種類の構造の線材で巻いたレーストラックコイルで、劣化は確認されず、またコイル
形状保持の観点からも問題ないとのことである。
鉄道総研の水野ら(3A-a09)は、浮上式鉄道応用を念頭に、実機大の含浸REBCOレーストラックコイルを製作し、良好な通電特性
を得たことを報告した。通電特性の劣化を防ぎつつ、伝導冷却できる構造とするために、テフロンテープを共巻する方式の導入
がポイントとのことである。
東北大の淡路ら(3A-a10)は、Yoroi構造と呼ばれる補強構造について、肉厚円筒の焼きばめの考え方で行った応力解析結果を示
した。本構造はコイル径が大きくなるほど大きな効果が得られるとのことである。BJRの考え方と関連した議論があった。


コイルPJ(1) 3A-a01-04 座長 水野 克俊

3A-p01:横山(三菱電機)らは、MRI用高安定磁場コイルシステム基盤技術の研究開発プロジェクトの概要を報告した。液体ヘリウム
を用いない3 T-MRI高温超電導マグネットの実用化の見通しを得ることが最終目標である。H27までにボア径300 mmの試作を行い、
イメージングも実施予定である。
3A-p02:井村(三菱電機)らはMRI用高温超電導コイルの試作を行い、コイル構造について報告があった。フッ素コーティングした
ポリイミドテープと、通常のポリイミドテープで線材を二重ラップすることにより、エポキシ含浸による劣化を阻止するものである。
試作した10個のコイルはすべて劣化がないことが確認された。
3A-p03:中村(京大)らはパーコレーション遷移モデルでコイル通電特性を予測し、実際に製作したダブルパンケーキコイルの通電
特性と比較を行った。曲げによる通電電流低下まで考慮してIcが80%まで低下すると仮定したところ、電圧の立ち上がり傾向を含
めて試験結果とよく一致した。
3A-p04:柴山(京大)らは線材長手方向の通電特性のばらつきをモデル化して電流負荷率に反映する試みを行った。通電特性の
ばらつきはGauss分布よりもWeibull分布での再現がよい結果となった。コイル総発熱量から求めたIc以下でも局所電界が閾値を超える
ことが明らかになった。


コイルPJ(2) 3A-p05-09 座長 中村 武恒

3A-p05:東芝の戸坂らは、経済産業省の高温超電導コイル基盤技術開発プロジェクトとして実施している「高磁場コイルシステム
の研究開発」について、その概要を説明した。同プロジェクトでは、ヒト全身用の10 T級(9.4 T)MRI磁石実現を目指しており、
高磁場化の意義やプロジェクト全体計画が紹介された。
3A-p06:東芝の宮崎らは、MRI用高温超電導コイルの励磁に際して発生する遮蔽磁場の影響について、極小口径10 Tコイルを使って
検討した。試作したコイルについて、1.2 T @150 A程度の遮蔽磁場が発生すると報告された。また、劣化の少ないコイルを実現する
ためには、許容剥離応力のバラつきの小さい線材を使用することの重要性が実験結果に基づいて説明された。
3A-p07:早大の石山らは、10T級MRI用高温超電導コイルの最適設計結果について報告した。当該設計では、高磁場均一度を維持しな
がら、巻線使用量を低減する設計が試みられた。その結果、パンケーキ間のギャップを考慮する必要があることや、磁場均一度を
評価する係数の計算方法に注意を払う重要性が指摘された。
3A-p08:早大の石山らは、引き続いて巻線誤差の不整磁場への影響について報告した。10 T級小型磁石を対象に検討した結果、より
低次の均一度が影響されやすいことが解析に基づいて示された。
3A-p09:早大/阪大の植田らは、上記一連の最後の講演として、遮蔽電流磁場の計算評価結果を報告した。線材厚み方向で電磁場が
一様と仮定して、積分方程式、高速多重極法や超電導特性を考慮可能な非線形有限要素法を組み合わせた三次元電磁場数値解析を
駆使して、高精度な解析が実現された。その結果として、磁場安定性や同均一度に関する詳細な知見が得られた。




5月28日(水)
B会場 9:30-15:00

HTS線材評価 3B-a01-05 座長 柁川 一弘

3B-a01:武田(住友電工)らは、従来と同程度の臨界電流をもつ薄型のBi-2223銀シーステープ線材の開発に成功し、工学的電流密度
の向上と銀使用量の低減を両立した実験結果について報告した。
3B-a02:古川(九大)らは、走査型ホール素子顕微鏡を用いてBi-2223線材の自己磁界が幅方向の臨界電流密度分布に与える影響を
明らかとし、有限要素法に基づく電磁界解析コードにより集合導体の電流容量に与える素線間相互作用について定量的に評価した。
3B-a03:平山(鹿児島大)らは、スクライビング加工したHTSテープ線材の電流分布を多数のピックアップコイル群を用いて実験的に
評価する際に、従来の振幅だけを考慮した手法に加えて位相差も含めて考慮する新しい電流算出法について検討した。
3B-a04:鈴木(東北大)らは、市販のREBCOコート線材に改良した歪み印加アニールを適用して、線材長手方向にb軸、横方向にa軸を
揃えることに成功し、臨界電流密度の歪み依存性に与える結晶方向の特性の違いを実験的に明らかとした。
3B-a05:長村(応用科学研)らは、IEC-TC90における国際標準の作成活動の一環として、REBCOテープ線材の室温における機械特性の
国際ラウンドロビンテストの試験結果を報告し、その解析結果に則した新基準の採用を提案した。


鉄系超電導体 3B-a06-09 座長 長村 光造

3B-a06 山下愛智(物材機構)概要:層間に過剰に存在するFeを電気化学的に溶出させ超伝導特性を向上させた。質問3件:電解により
臨界温度は上昇したか?時間はどのくらいかかるか、また再現性はどうか、薄膜の実験は可能か、臨界磁場の変化はどうか
感想:着実な研究
3B-a07 藤岡正弥(物材機構)概要:フッ素濃度を増加させることにより超伝導温度を高めることができた。質問2件:c軸方向の電気抵抗
は測定可能か、γが小さくなるが何故か、フッ素置換はどこまで可能か
3B-a08 出口啓太(物材機構・ジェック東理社)概要:過剰鉄と硫黄を反応させてFeS2として系から除外することにより臨界電流向上
質問3件:形成されたFeS2はどのような形態か、ピンニング効果があるのか線材として長尺化は可能か、臨界温度の向上はあったか
3B-a09 GAO Zhanshun(物材機構)概要:Transport Jc at high magnetic field region higher than 20 T was improved by pressing
uniaxially the double sheath tape. 質問2件:what is the current limiting mechanism. Possibility to fabricate a long scale wire


加速器(2) 3B-p01-03 座長 小泉 徳潔

本セッションでは、KEKから、LHC高輝度アップグレード用超電導磁石の開発について2件の発表と、SuperKEKB衝突点用超電導磁石
システムに関わる発表1件が報告された。本セッションの聴講者は、約30名で、核発表に対して、質疑も盛んに行われた。
KEK中本氏から、LHC高輝度アップグレード用超電導磁石の開発計画について説明された。また、間もなく、電流リードの補修を
完了させ、コミッショニングが開始されることが説明された。本超伝導磁石に使用される絶縁材は、耐放射線性のシアネート・
エステル系の樹脂を使用する計画であり、ガンマ線による照射試験では、100 MGy以上の照射でも劣化が観測されないことが報告
された。
KEK菅野氏からは、LHC高輝度アップグレード用超電導磁石の電磁設計の検討結果が報告された。10-4の磁場精度を目標としており、
誤差磁場を発生させる種々の要因とその影響について、詳細に検討されていた。
KEK有本氏から、SuperKEKB最終収束用超電導4極電磁石の製作結果が報告された。非常に高い精度で製作が完了している。


HTS応用 3B-p04-6 座長 王 旭東

3B-p04 上野(住友電工):20 MW級船舶用モータを想定した超電導界磁1極モデルコイルの励磁試験結果について報告された。
BSCCO線材を用いてレーストラック形状に巻線したモデルコイル(全長1.657 m幅0.357 m)の製作と直線部の電磁応力約150 t
(33 MPa)を想定した補強構造が紹介された。コイル外周の直線部のSUSケース補強枠に楔を多数設けることでコイルと補強構造が
一体化された形状である。補強枠の上面に設けられた銅冷却パスから伝道冷却により約27 Kで励磁試験が行われた。試験結果は
良好で、劣化なく予定の200 Aまで完了し、試験後の解体確認でも剥離などの外観異常はないとのことであった。補強構造や冷却
構造に関する質疑があった。
3B-p05 山口(住友電工):先の発表との関連で20 MW級船舶用モータを想定したBSCCOコイルのクエンチ保護に関する実験結果が
報告された。ダブルパンケーキコイルを4個積層した実機の1/14サイズのモデルコイルについて、コイル上下から35-40 Kまで伝導<
冷却し、200 A通電状態で温調によりコイル全体の温度を変化させて、劣化しないクエンチ検出電圧と電流減衰時間の関係に対して
評価された。電流減衰時間が10 sでは0.06 Vの検出電圧で保護が可能とのことであった。質疑では、クエンチ模擬の実験方法や
コイル内の伝播などについて議論された。
3B-p06 宗(KEK):SuperKEKBの超電導磁石用電流リードの試験結果について報告された。全110本の電流リードのうち22本が市販
のもので主要の超伝導4極磁石と補正ソレノイド磁石に使われ、定格電流は450 A,1.0 kA,1.35 kA,1.8 kA,2.0 kAである。その他
の補正磁石用70 AリードにはREBCO線材を並列にはんだ接続したモデルをKEKで開発し、その試験結果も報告された。KEKでは上記の
電流リードについて順次性能試験を行っている。質疑では、今後の開発スケジュールやREBCO線材を用いた高温超電導電流リードに
ついて議論された。


5月28日(水)
C会場 9:30-15:00

Y系バルク(2) 3C-a01-05 座長 内藤 智之

3C-a1 栗山(東大院工):溶融法で作製されたY123バルクの粒間臨界電流密度(Jc)の改善を目的としてCaドープを実施した。Caドープ
によって磁化測定から決定した粒間Jcが向上したこと、磁気光学法による残留磁束密度分布の直接観察においても粒間Jcの低下が抑制
されていることが示された。また、CaドープによるTcの低下はわずかであり、冷凍機冷却による動作温度では大きな問題にならない
ことが指摘された。
3C-a02 瀬戸山(東大院工):RE123バルクのRE種を単一ないしは複数とすることでREとBaの固溶が磁束ピン止めに与える影響を詳細に
調べた。RE/Ba固溶によって結晶構造が正方晶に近づくことに着目し、その固溶量を斜方晶性で評価した。77 Kにおけるピン力密度は
斜方晶性が8.9程度の時に最大となり、RE混合によってRE/Ba固溶量、すなわちピン力密度を比較的容易に制御可能であることを示した。
3C-a03 山木(東大院工):Y123バルクの77 K以下の低温度領域でのJcの改善に有効なピン止め中心に対する知見を得るためにGaおよび
Sr共ドープを行ったが、40 KのJcはGa単独ドープの場合よりも低下した。これは超伝導母相の超伝導性の低下が原因であると指摘した。
一方、Gaドープに加えて電子線照射による点欠陥を導入した場合は、2 T以下の低磁場領域のJcが無ドープバルクに比べて1.5倍程度
に大きく向上することを示した。
3C-a04 福本(鉄道総研):小型NMRへの超伝導バルクの適用を目指してリング状超伝導バルクを複数個積層させたマグネットの捕捉磁場
特性について報告した。リング中心積層方向の磁場均一度は印加磁場が低い方が良いこと、またリング内部の径方向の磁場均一度は最大
捕捉磁場値よりも印加磁場を低く設定することで向上することを示した。
3C-a05 松田(日立):超伝導バルク磁石の磁場設計のためには実験で得られた捕捉磁場特性を正確に再現できるシミュレーションモデル
の構築が重要となる。積層型リング状超伝導バルク磁石に対してバルク積層方向の電流分布を考慮した着磁シミュレーションを実施した
ところ、このモデルが円筒内部の磁場分布および外部の磁場低下を良く再現することを示した。


MgB2バルク 3C-a06-08 座長 岡 徹雄

大会3日の午前に、近年注目を集めるMgB2バルクを対象に3件の口頭発表が行われた。
富田ら(鉄道総研、3C-a06)は、MgB2バルクに関する世界の研究拠点を紹介し、その研究開発の拡大の様子を紹介した。すでに
4 T級の捕捉磁場が報告され、磁石としての位置づけを明確に示す一方、製造条件が広く許容され、加工性や均一性に優れる
ことを示した。
杉野ら(東大、3C-a07)は、PICT法によるMgB2バルクの合成法を紹介し、不純物としてのCの混入が材料性能に及ぼす影響に
ついて報告した。温度条件によって、その混入がJcの向上に有効であり、粒界面積の増大が寄与していると示唆した。
吉田ら(岩手大、3C-a08)は、HIP(高温等方圧プレス)によるMgB2バルクの緻密化を目指し、Tiを高濃度に混合した試料の捕捉
磁場性能に言及した。Tiと母相の反応で生じるTi-BがTi粒子周辺に生成し、これがピン止めに寄与したと述べた。
以上3件の報告を通じ、MgB2バルクは、広い製造条件下で均質な材料が得られることから、産業応用に際して材料としての高い
信頼性が示唆された。一方、製造方法の多様化や微細組織の制御に今後の最適化に課題があることも討論を通して指摘された。


FeAs系 3C-p01-03 座長 筑本 知子

3C-p01:辻岳ら(東大)らはPドープBa122多結晶の特性について、熱処理条件とPドープ量の影響について系統的に調べた結果
を報告した。臨界温度Tcについては、35~40%で30 K以上が得られており、良好な臨界電流特性が得られた。ドープ量を50%では、
臨界電流特性が著しく低下したが、SEM観察の結果クラックや不純物相が生成していることから、これらが電流パスを阻害したためと
考察した。
3C-p02:飯原(慶応大)らは、SmFeAsO1-xFxの多結晶試料について、磁化測定により臨界電流密度Jcを求めるともに、SQUID顕微鏡で
の磁束観察を行なった結果について報告した。Fの添加量によりJc特性は変化し、バインダー法にて作製したx = 0.082(分析値)が
最も高いJcを示した(~13 kA/cm2 @5 K)。SQUID顕微鏡による磁場分布測定結果からのλ値の導出については、再検討が必要
であるとのコメントがあった。
3C-p03:三浦(成蹊大)らの共同研究グループ(成蹊大、ロスアラモス国立研、JFCC、ISTEC)は、PLD法にて製膜したBaFe2(As0.66P0.33)2
薄膜のJc特性について、BaZrO3(BZO)の添加により大幅に上昇することを報告した(15 K、1 Tで1.5 MA/cm2。BZO添加なしの場合の
約7倍)。TEM観察の結果、BZOが母相に約8 nmの微細粒状に析出しており、それがピン止め中心として効いていると考えられる。
このBZOの添加により、Jcの磁界角度依存性も大幅に減少し、等方的ピンとして作用していることも確認された。


A15線材 3C-p04-06 座長 村上 幸伸

3C-p04:太刀川(物材機構)らは内部拡散法Nb3Snの機械的特性の改善を最終目的として、Cu母材にZnを添加する方法を
提案。今回は予備的研究としてCu-15%Znを用いたサンプルを作製し、母材中のSn、Zn、Tiの拡散挙動について報告した。
実験結果では、Cu母材に比べ熱処理後のボイド生成が抑制されることを示し、Znの拡散が早いことによるものと考察して
いる。また熱処理後も母材中にZnが約14 wt%一様に分布しており、今後の機械的特性や臨界電流特性の報告が期待される。
3C-p05:高畑(NIFS)らはNIFSで設計中のヘリカル型核融合炉に使用するアルミニウム合金被覆Nb3Sn導体から取り出した
サブケーブルの臨界電流を測定することで、ジャケット被覆による劣化の有無を評価した。マグネットやサンプル電源の制約
から、4 K, 12 Tの運転条件に対して12~13 K, 9 Tで臨界電流を評価し、ジャケット被覆後のサブケーブルは被覆前のものに
比べ約10%低い特性を示したが、スケーリング則から実際の運転条件ではこの差は緩和され実質的に劣化は無いと考察した。
3C-p06:伴野(物材機構)らは急熱急冷・変態法Nb3Al線材のBCC相の加工度を加味したJcに与えるAl層厚の影響について
報告。BCC相に加工を加えない場合のJcはAl層厚に異存せず、BCC相に加工を加えるとAl層厚が薄いほどJcが増大
することを示した。変態後の組織観察から、Al層厚が薄くなるほどA15相内のボイドが減少することを確認し、Al層厚が
薄いほど化学量論組成が改善していると考察。これがBCC相に加工を加えた場合のJc向上に寄与している。一方BCC相
に加工を加えない場合にはボイドが板状欠陥として作用し、Al層厚の厚いサンプルのJcを押し上げているとし、
化学量論性と板状欠陥密度が重なり合った結果としてBCC相への加工有無のJc挙動を説明した。


5月28日(水)
D会場 9:30-15:00

熱伝達(HeⅡ,液体窒素,スラッシュ窒素) 3D-a01-05 座長 白井 康之

熱伝達のセッションで5件の発表があった。
核融合研の高田氏より、微少重力下での超流動ヘリウム中で単気泡が安定に成長していく様子 がビデオによって紹介された。
続いて、筑波大の村上氏より水素-重水素固体微粒子を用いたPIV 法によるHe II 中の膜沸騰現象の観測結果がビデオ画像で
紹介された。非沸騰、ノイジーとサイレント沸騰の3ケー スが明確に弁別される。東北大の大平氏より水平円管を流動する
気液二相液体窒素のボイド率測定と圧力損失、熱伝達特性について、一般常温 流体の表示式の極低温流体への適用可否に
ついての検証結果が示された。前川製作所の池内氏からスラッシュ窒素の自然対流熱伝達率測定試験結果について発表が
あった。今回冷却応用を広げることを目的に、強制対流冷却特性ではなく自然対流下での試験を行った。最後に、スラッシュ
窒素用静電容量型固相率計について神戸大の武田氏より報告があった。3種の固相率計を作製し性能評価を行っている。


熱伝達(液体水素) 3D-a06-09 座長 池内 正充

3D-a06 自然対流における液体水素膜沸騰熱伝達特性
Q:液体水素を加熱していく場合において、核沸騰領域を飛び越え非沸騰領域から膜沸騰領域に直接転移する現象は観測され
なかったか?
A:準定常状態で加熱したのでそのような現象は確認されなかった。
Q:圧力が高くなるに従い膜沸騰熱伝達率が上昇しているが、その原因は何か?
A:圧力で気泡が小さくなっていることが原因と考える。
3D-a07 液体水素の強制流動化における過渡熱伝達
Q:流速は気泡が発生しない状態での値ではないのか。現象をその数値で評価して問題ないか?
A:ボイド率は0.1程度と小さく、流速に大きな影響を与えるとは考えていない。
3D-a08 液体水素流路中の円柱発熱体における膜沸騰熱伝達
Q:実際の条件を考えるとΔTsat(液体とヒータの温度差)を200 Kも取る必要はないのではないか?
A:実際にはそこまでの温度上昇があるとは考えていない。熱伝達の傾向をみるため意識的に測定範囲を広げている。
Q:加熱面の蒸気膜厚さはどのくらいになるのか?
A:十分な想定まではしきれていない。
Q:蒸気膜厚さを想定できれば、流速を補正することは必要となるか?
A:今の段階では分からない。データ収集を行いながら考察していく。
3D-a09 液体水素冷却における矩形ダクト内の片側平板の強制対流熱伝達特性
Q:発熱体が矩形ダクトの1辺にしかないが、その場合でもDittu-Boelterの熱伝達式が当てはまると考えてよいのか?
A:実験結果より妥当と考えている。


MgB2(2) 3D-p01-07 座長 児玉 一宗

本セッションでは、MgB2バルク・線材の高Jc化、および特性評価に関して7件の報告があった。
3D-p01: 水谷(東大)ら、3D-p03: 久良(東大)らはそれぞれ、ex situ法、MgB4+Mgを前駆体とする方法によるMgB2バルクの
Jc化の検討結果について報告した。いずれも使用する粉末の性状の制御が重要で、前者では微細なB原料を使用して低温
合成したMgB2粉末を用いること、後者ではMgB4粉末の表面を酸処理で清浄にすることが有効であるとのことであった。
3D-p02: 葉(NIMS)らは、内部拡散法の線材において、炭素供給源にC24H12を使用することで、SiC粉末の場合よりも高いJc
得られることを報告した。MgB2生成温度以下でのC24H12の溶融と分解が炭素分布の均一化に寄与したことが要因と考察した。
3D-p04: 堀井(京大)らは、電子ビーム蒸着法によるMgB2薄膜の20 K高磁場域のJc向上を目的に、蒸着源にB4Cを混合すること
で炭素添加を試みた。臨界温度と格子定数の系統的な変化から、置換量の制御が可能であることを示した。置換量が過剰で
Jcが低下したため、今後は最適なC置換量を探るとのことであった。
3D-p05: 東川(九大)らは、線材断面構成に磁性材料が適用されるMgB2線材において、磁気顕微鏡と数値解析とを併用する
ことで、実用上重要な高温低磁場域のIcを発熱や測定システムの制約から困難な通電法を用いずに評価できることを示した。
3D-p06: 松澤(京大)ら、3D-p07: 茂田(京大)らは、液体水素冷却によるMgB2線材の超電導機器への適用を想定し、液体水素中
でのMgB2線材の過電流特性について、実験と解析の結果を比較した。解析結果の一部(MgB2の常伝導状態の抵抗率、電流値と
温度の関係など)に実験との不一致がみられるが、モデルの改良により解析の確度を向上させていくとのことであった。